
公益通報 Q&A



改正法議論の中で、証拠持出行為について免責するための要件を定めるべきとの意見もありましたが、現行の公益通報者保護法には明文の規定は設けられていません。裁判例は、事情を総合考慮した上で、公益通報のために必要な証拠持出行為につき許されるかどうかを判断しています。

Q. 当社では、顧問弁護士事務所に公益通報の内部通報窓口になってもらおうと考えています。このような対応は適切ですか。


利益相反の懸念があること、通報者から通報窓口の中立性に疑念を抱かれるおそれがあることを踏まえると、顧問弁護士事務所に公益通報の内部通報窓口になってもらうことは、違法とまではいえませんが、必ずしも望ましい対応ではありません。
消費者庁ガイドラインに「顧問弁護士に内部公益通報をすることを躊躇する者が存在し、そのことが通報対象事実の早期把握を妨げるおそれがあることにも留意する。また、顧問弁護士を内部公益通報受付窓口とする場合には、例えば、その旨を労働者等及び役員並びに退職者向けに明示する等により、内部公益通報受付窓口の利用者が通報先を選択するに当たっての判断に資する情報を提供することが望ましい。」という記載があることを踏まえると、やむを得ず、顧問弁護士事務所に公益通報の内部通報窓口になってもらう場合であっても、顧問弁護士事務所が公益通報窓口となっていることの事前の告知が必要であると考えられます。

著名な公益通報・内部告発の事例
1. 大阪いずみ市民生協(内部告発)事件

以下では、公益通報にかかわる実例をみていきます。
大阪地方裁判所堺支部平成15年6月18日判決(判例タイムズ1136号265頁、労働判例855号22頁)として公刊されています。
裁判所は、生協役員らの不正行為を内部告発した職員らに対して行われた出勤停止命令、自宅待機命令、懲戒解雇、配転命令につき、正当な内部告発に対する報復を目的としたものであったと認定し、生協役員らの行為につき不法行為が成立するとして、損害賠償を命じています。
公益通報者保護法の施行日は平成18年4月1日であり、公益通報者保護法施行前の事案です。
2. オリンパス事件
東京高裁平成23年8月31日判決(判例時報2127号124頁、労働判例1035号42頁)として公刊されています。
裁判所は、労働者によってなされた内部通報を契機に、業務上の必要性とは無関係に会社が制裁的に配転命令をしたものと推認できると判示しています。その上で、裁判所は、労働者が内部通報をしたことを動機の一つとして配転命令を行ったものであって、通報による不利益取扱を禁止した会社の内部規定にも反するものであったと認定し、内部告発を理由とする違法な配転命令があったとしてこれを無効であると判断するとともに、不法行為に基づく損害賠償を命じています。
この判決は確定しています。
3. 兵庫県における告発文書問題
兵庫県における告発文書問題は社会的にも耳目を集め、そのこともあり、三省堂辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2024」の第7位に「公益通報」が選ばれています。
兵庫県における告発文書問題については、第三者調査委員会が作成した報告書が公表されています。
同報告書は、文書問題に対する県当局の対応について、被告発者として名指しされた当事者自身が関与して通報者探索行為が行われたものであって、公益通報者保護法に違反する違法な行為があったと認定しています。
4. フジテレビ事件
第三者委員会が作成した報告書が公表されています。
報告書を読む限り、フジテレビの番組の出演者と同社で勤務していた女性とのトラブル対応等に関し、フジテレビにおいては、コンプライアンス相談窓口(内部通報窓口)が形式的に設置されていただけであり、これが実質的に機能していなかった事案であるとみることができます。
まとめ

以上の実例からも分かるとおり、内部告発、公益通報につき、公益通報窓口を作った上でこれを実質的に機能させる運用を行っていなければ、社会的に大きな批判を受け、また、取引先から取引を差し控えられるなどの影響が出て、貴社が重大な損害を被ることにもなりかねません。
ただ、現実に公益通報窓口の運用を行っていると、私怨を契機とする通報、被通報者を陥れることを目的としていることが疑われる通報、通報者の思い込みを前提とする通報が紛れ込んでいることが少なくありません。
他方で、通報を契機として社内体制の見直しに結びつく運用を行っていれば、通報窓口自体に対する労働者の信頼にもつながり、より有益な通報を呼び込む契機にもなります。
公益通報窓口を適切に運用しているか否かは、貴社の懐の深さを測る指標といえるでしょう。